『冗談新選組』のレビュー
♯1~3はタイトル作。後書きには司馬遼太郎の[新選組血風録]を読んで血生臭さを感じ、『誰も惨殺されない"血風録"にしよう』と考え描いたと有る。しかし、絶妙に端折った史実をコント風につづる表現法はすでに完成されており、将にプレ[風雲児たち]とでも言うべき印象だった。一転して♯4~14では「忠臣蔵」を描いている。描くべき情報があまりにも多いことから漫画とは別に文章のスペースが設けられており、その点で評価が分かるかもしれない。ただ討ち入りについて、杉浦日向子の[吉良供養]ともまた別の方向から広く考察が巡らされており、紙数の制限が惜しくなるほど面白い。歴史好きなら読めば一興を感じずにはいられないだろう。
2022年1月22日
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1.こんな忠臣蔵があったのか? 実は、この作品の表題作ではなく、第4話から始まる「仁義なき忠臣蔵」を大変気に入っております。他の忠臣蔵の小説・漫画・ドラマとはまるで異なる解釈を1970年代に提示されたのは、とてもすごいことだと感じます。 2.どんな新解釈なのか? 「元禄時代に発生した江戸城松の廊下刃傷事件は本当に吉良さんのいじめが原因なのか?」とか、「赤穂浪士は正義の味方なのか?」という論点に対して、新解釈を示されたわけです。旧解釈というかほぼ通説に近い考え方では、仮名手本忠臣蔵というお芝居の内容をベースにして、「吉良がいじめたので悪い人」とか、「赤穂浪士は悪者をやっつけた忠臣なのであっぱれ」としているのですが、本当にそうだったのかという投げかけをされています。その後、本作と同様の投げかけをする作品が出てきて、3.11が発生した2011年には、「新・子連れ狼」の執筆をされた森秀樹先生が「ちから」という作品の中で、更なる謎解きをされています。 3.新解釈の他に見どころはあるのか? ありますあります。登場人物たちが、それぞれのお国言葉で話をしているのが、妙にリアルに感じます。この作者の作品では「ホモホモ7」が有名ですが、突然劇画モードに切り替わるギャグマンガが持ち味でした。本作では、ギャグ描写一辺倒となっていますが、この描写とお国言葉が大変マッチしていると感じるわけです。作品の最後の方で、吉良さんが三河弁で語る申し開きの内容と最終話で内蔵助さんの語る恐るべき本音の内容が、もうギャグマンガの域を出て説得性を帯びて聞こえます。 4.文章がいっぱい出てきて読みづらいと思われる方に この作品、漫画の下どころか丸々1頁取って作者の想いをつづった文章が出て来るので、最初は面食らいます。私は、最初漫画だけを読みました。それでも全然話は通じますし、サクサク読めてしまいます。そして後から、この文章を拾い読みでも構わないのでお読みになれば、何故作者がこういう作品を描こうと思ったかという意図がわかります。歴史の中には、後世の人が自分の利益につながるように都合よく書き換えている部分があるかもしれないという事を感じさせられた次第です。 私は、この作品をかつて有料購入したのですが、今では無料で読めるのですね。せっかくの機会ですから、少しでも多くの方にご堪能いただければと思います。
2021年6月17日
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30
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