物語全体に漂う重苦しさ、嵐の前のような不気味な静けさは、いったいどこからくるのだろう。表情筋の死んだこの姉が、厳しい母からある種の抑圧を受けていたのは間違いない。…が、その”母”がふいに亡くなって、乾いた哀しみと共に昇華されるはずだった自己抑制は、消えるどころか姉の心の奥底まで深く食い込む楔となっていた。深層で母を憎みながら、だからこそいつまでも母の影を引きずったままの彼女は、そら恐ろしいほど母親そっくりに見える。まるで亡霊に憑りつかれた人みたいで見ていてぞわぞわする。「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」「長女なんだからちゃんとして」親はきっとなんの気なしに口にしているこの言葉が、思いがけず子供を縛ることもある。姉に無意識(?)のマウントを取られ続ける妹も、友人の軽口(でもあんなことフツー言わない)に「マジレス」しちゃうくらい、真面目過ぎて適当に流すことが出来ないから苦しい。すべての根源は、海外で自由に暮らす母の妹への根深いコンプレックスにありそうな予感。しかし父の影が薄いな…。