鳥栖哲雄(47)は中小玩具メーカーに勤めるごくごく平凡な営業職の平社員。
家庭的な妻と大学生の娘を持ち、趣味はミステリー小説を書くことと読むこと。
そんな何もかもフツーすぎる冴えない中年男が、娘を食い物にするDV彼氏を衝動的に殺してしまったことから、ヤクザや半グレが出し抜き合う裏社会の陰謀に巻き込まれていく。
まず主人公の造形がリアルすぎ。中小企業勤めのぱっとしない会社員という設定は腐るほどあるが、趣味の設定がこりすぎる。某投稿サイト(あきらかになろう……)に趣味の推理小説を投稿しているものの、評価はいまいちで一日の閲覧数は平均100PV。コミュニティ会員の人数は13人と、数字がいちいちリアルすぎる……こういうお父さん実際いそうと、細部から詰めていく。
娘の顔に殴打痕を発見してからの流れも非常に説得力ある。自分がもし同じ状況になったらこうするだろうな、と思いきやそこからの展開は怒涛。
この話の少々特殊なところは、主人公が一人で試行錯誤するんじゃなく、序盤で妻という強力な共犯者をゲットするところ。
夫婦の共同作業で証拠を隠滅し殺人を隠蔽するのだが、手口の描写が凄くリアルで、実際にできそうなのが怖い。死体を処理する方法とかその後の清掃法とかリアリティありすぎて、真似するヤツがでてくるんじゃ?と不安に(そこもちゃんと予防線張ってるんだろうけど)
主人公を怪しんで調べる恭一もいい。頭が切れる半グレメンバーと見せかけて実は……な生い立ちがわかってから、がぜん魅力が増す。鳥栖一家に助かってほしい、でも恭一に死んでほしくないジレンマでじれじれ。
一人娘の零花もすごく真っ直ぐないい子で、なんでこんないい娘があんなクズに?と大前提で疑問符が付くのだが、彼女が親思いの優しい子であるからこそ、哲雄と歌仙に感情移入して守りたくなる。
死体の処理方法やアリバイ作りなど、一般人ならまず思い付かない機転や知識も、「ミステリー小説好きで自分でも書いており、そのための資料調べを怠らない」哲雄の真面目な性格を下敷きにしているため、さほど不自然に感じない。
延人の殺人に関しては落ち着き過ぎでは……?と思ったが、風呂場で解体中に吐いたのだろうか。
一難去ったと思えばまた一難とトラブルが畳みかけ、哲雄の殺人はバレるのか、一家は無事逃げ切れるのか先が気になってしょうがない。