他の方もおっしゃってますが確かに「火の鳥」へのオマージュやリスペクトを感じる。
出会った者から刺激を受けてその姿を写しとる謎の「球」の彷徨と成長を描く話。壮大な世界観と粗削りだが緻密な描線が、古き良きジュブナイルSFの趣を醸しだす。
ジュブナイルというにはグロテスクな描写や過酷な展開も多々あるが、名もなき球が他者との交流を通じ、出会いと別離がもたらす刺激によって自我を獲得していく過程は成長物語としてオーソドックスでさえある。
彼を地上に送りこんだ存在の正体と思惑や世界の全体像など謎が多く、知的好奇心が刺激される。
少年に飼われる狼から少年自身へ、無意味な死など一つもないというメッセージ性を体現するが如くその存在の写しを自らの内に取り込んで変化していく彼の旅路に、この先どんな冒険が待ち受けるのかはらはらどきどき。
今はまだ言葉も感情表現も未熟で、人の形を得ても人足り得ない「彼」が、喜怒哀楽の感情や表情を獲得しながら足跡を記す過程で何を失い何を得るのか、想像が膨らむ。
二話から登場する二ナンナの少女マーチがこれまた表情豊かで可愛らしく、ころころ変わる百面相や少年とのユーモラスなやりとりが微笑ましい。
世界観は神話的に豊穣な広がりを見せ、単行本に挿入される神話の断片とリンクするのが憎い演出。
この作品は全体を通し「変化」をテーマにしてる。
環境の変化、大人への変化。
他者が変化する事によって己もまた変化する。
度重なる変化の連鎖が「種」として、そして「個」としての進化を促す様が綴られて静かな感動に浸れる。
クリーチャー描写も秀逸。異形の動植物や変身シーンなど、素朴で粗削りな線と、繊細で緻密な描写が同居するダイナミックな作画が魅せてくれる。
これからが楽しみな作品だ。