フォルクス・ヴァーゲン研究所に臨む導入部。当時としてはダミーによる安全性テストなど世に知られておらず、読む者をフィクションとノンフィクションの狭間に誘う。
過剰な性描写はともかく、種差別や解離性同一性障害など、そのエキセントリックな内容は読者の「強度」を抉り出す。
とにかく、この作品に「意味」を求めてはならない。プルーストの『失われた時をもとめて』を読むように、まずは全巻を通して読んでもらいたい。そして、そこに繰り返し描かれる性愛の本質、そして失われた家族の肖像の背後には、揺蕩うような博愛がディエジェーズされているのだから。
少なくとも、この作品を『荒唐無稽な男根主義』と切り捨てるにはあまりにも惜しい。