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『pink 新装版』のレビュー

作者の絵が上手い下手で賛否両論分かれがちだが、このある意味で現代を風刺する、底抜けに明るく愚かで、痛ましくもおかしい話に、ゆるゆると脱力した線はよく合っている。 欲しいものは欲しい、手に入れる為なら体を売ることも辞さない。昼はOLとして商社で働き夜はホテトル嬢としてカラダを売る主人公は、自宅で飼うワニに愛情を注ぐ。 ワニは肥大する物欲のメタファーであると同時に、けっして満たされない渇望を象徴している。 後半でワニのモノローグが挿入されるのだが、ワニもまたふるさとへの郷愁に駆られ、常にここではないどこかを求め続けている。 ワニのように貪欲な主人公を取り囲む家庭環境は複雑だ。反りの合わない継母と天衣無縫な義妹、母は嫌いだが妹は好き。そこへ母親のヒモが現れ、妹も加わった奇妙な共同生活がはじまるのだが…… 特に印象的なのはラスト近く、OL仲間とカフェでお昼をしていた主人公の言葉。 欲しいものはなんとしても手に入れなきゃ気が済まない彼女は、ある意味では足るを知り、自分の身の程をわきまえた友人へ凄まじい怒りと反感を抱く。 彼女が本当に欲しかったものは何か。幸せといってしまえば短絡だ。居場所といってしまえば安っぽい。 彼女が本当に欲しかったのは、言葉にできない何か、よるべない自分が依れるリアリティだ。 ヒモと義妹が共同制作した寄せ集めの切り貼りが、「小説」として立派な賞をとってしまうように、彼女たちのアイデンティティはすかすかだ。 世間の評価なんててんであてにならない、外側さえ辻褄が合ってれば一人の人間として認められてしまうもどかしさ。 明るく笑えるシーンもたくさんあるのだが、そのくせ乾いた諦観が漂っている。 誰も彼もが誰かを妬み何かを欲しがり決して満たされることがない、今の世の中では誰もが虚無を食べるワニだ。 結局彼女は何も手に入れられなかった。 やっと手に入れたと思ったしあわせは夢と消え、だが空港で薔薇色の未来を夢見る彼女はそれを知らない。 ここで切るのは非常に憎い演出。 未完成のまま放り出された小説のように、リアリティのないリアルを生きる彼女もまた、白昼夢のような現実のただ中に放り出された。 実の母の言葉を忘れられないまま大人になった彼女は、心のどこかで「永遠」も「王子様」も信じていたのかもしれない。
2020年5月6日
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