スキマ スキマ - 無料漫画を読んでポイ活!現金・電子マネーに交換も!

『クジラの子らは砂上に歌う』のレビュー

文明崩壊後の砂漠を渡る「泥クジラ」なる巨船上に共同体を築いて暮らす民。 情念動を操る短命な超能力者「印」と、その指導者的立場である僅か一割の「無印」… この設定だけでSFファンならときめくはず。加えて泥クジラの風俗や文化や生態系がとてもよく練られている。冠婚葬祭の習俗や食、衣類や詠読みに至るまで、過酷な環境に晒されながらも生活の知恵を駆使して逞しく暮らす泥クジラの民の生き方は非常に魅力的。 思春期の少年少女の中性的な色気を抽出する愛らしく繊細な絵柄と壮大な世界観が融合し、豊饒な物語にぐいぐい引き込まれる。この漫画自体、作者が再発見した偽史の体裁をとっている仕掛けが心憎い。 登場人物も敵味方とりまぜてキャラが立っており、戦闘狂のリョダリにしろ眼帯の団長にしろ背景が掘り下げられるほど憎めなくなる。喜怒哀楽の、特に「哀」の表現が秀逸で、リョダリが哄笑しながら堕ちていくシーンや団長が草を叩き斬るシーンの痛切さは胸に迫った。 平凡な少年が外界よりの使者である少女と出会い運命を切り開く、ボーイミーツガール物としても非常によくできている。 主人公のチャクロは心優しく、敵であろうと無闇な殺生は避ける。首長のスオウも年端もいかぬ敵兵に「共にここで暮らそう」と呼びかけたりと、絶望の中でもひたむきに明日を信じ続ける登場人物の純粋さや善良さが光る。 もちろんそれと対比される邪悪なキャラクターもいるのだが、遺されたものに託された想いの強さと尊さには胸が熱くならざるえない。 他にも寿命差故に引き裂かれがちな印と無印の恋愛、印の子を持った無印の親の宿命が数々のドラマを生み目が離せない。 ナウシカに言及する声は既にあるが、「地球へ……」なども思い出す。 オウニは「NO.6」のネズミを彷彿とさせるアウトローな造形なので、気になった人は是非読んでほしい。
2020年5月6日
レビューフィルタ